お客さまの声・体験記

  • 「ミートソースのスパゲティ」

「大丈夫ですか?!」

私はこの言葉をこれほどまでに心底声に出したことはありません。

それは家賃滞納があり全く連絡がつかない入居者の自宅へ訪問した時のことでした。
普段からそういった入居者宅へ訪問し、チャイムを鳴らし呼びかけます。

7月に入り蝉の鳴き声も大きくなり、気温もかなり高かったのを覚えております。
この日もいつも通り、いくつかの物件へ訪問しておりました。
その中の1件に私は違和感を感じたのです。

その物件は電気が止まっており出入りがありません。それだけならよくあることですが、
チャイムを鳴らし呼びかけると、出入りのないはずの物件から物音が聞こえます。
何事かと思い玄関ポストから大きな声で呼びかけます。
「○○さん、日本賃貸保証です。」
物音がします。

ガタガタ、ドン
ガタガタ、ドン

何度か呼びかけていると突然玄関の鍵があき、少し扉が開いたかと思うとそのまま力なく閉じようとしていたので慌てて扉に手をかけました。
するとそこには、健康な方とは思えない痩せ細った体つきの男性が玄関で座り込んでおりました。

「大丈夫ですか?!」
咄嗟に駆け寄りました。

事情を聞くと、貧困により10日間も自宅に閉じこもり、水のみで過ごしていたというのです。
前回の訪問の際は督促がきたと思い居留守したが、もう歩く元気もなく最後の力を振り絞り、
今回は玄関の鍵を開けたと仰ります。

すぐに救急車を呼び病院まで同行致しました。

栄養失調によるもので、この気温の中エアコンもつけていたなかった為、熱中症にもなりかけており、
危ないところだったとのことで、すぐに点滴が始まりました。

看護師から「本人が極端に入院を嫌がっているが、両親とは疎遠ということで連絡がつかないのです。」と聞き、保証契約書を確認すると連絡先として祖母の名前が記載されており、すぐにこちらから祖母へと連絡を取りました。
祖母に事情を説明すると、点滴が終わり病院側がOKを出せば祖母の自宅へ連れてきて構わないとのことで、その旨を病院側へ説明し了承をもらいました。

本人を車の横に乗せ、祖母の家に向かうと私も家に招いていただき、
滞納している経緯から本日訪問に至り契約者発見に至ったことを説明しました。

すると祖母は涙を流しながら「○○、困ったことがあるなら連絡してきなさい、こんなに親切にしてくれる人はいませんよ。」と言い家賃を全額立て替えてくれたのです。
本人も俯きながら涙を流し、「ごめんなさい...ごめんなさい...」と何度も私と祖母に頭を下げていました。

一通り話がまとまり、祖母が「ずっと何も食べてないんやろ、何か食べたいものあるか?」と問いかけると、本人は少し考えた後に、申し訳なさそうに言いました。
「ミートソースのスパゲティ。」